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将棋駒の産地「天童」と鞄の産地「豊岡」
伝統技法が融合して生み出した
オールレザーの「本格牛革将棋駒」

将棋駒の生産量日本一の山形県 天童市の職人たちと
かばんの一大産地である兵庫県 豊岡市の老舗が協力し、
牛革を何層にも重ねて磨き上げ、手作業で文字が刻まれた
唯一無二のオールレザーの本格将棋駒。


天童の伝統工芸品「天童将棋駒」

山形県 天童市は伝統ある“将棋駒”を後世に伝え守る日本一の産地です。
天童での将棋駒の生産は江戸時代に始まり、技術と技法を現在まで受け継いできました。
かつては天童の将棋駒は普及品とみられており、プロの公式戦で使用される高級将棋駒の多くは東京や大阪で生産されていました。
やがて、将棋駒の最高級品である“盛上駒”を天童の地で作り続けてきた駒師「桜井和男氏」らの尽力により天童の将棋駒の地位は向上し、1980年には第29期王将戦の対局で初めて天童の将棋駒が使用されることとなりました。
現在では天童市以外で生産されている将棋駒はほとんど無くなり、1996年に国が指定する伝統的工芸品として“天童将棋駒”が指定されています。
オールレザー将棋駒では、天童の伝統工芸士「桜井和男氏」に師事する若手の彫り師「亘山」「暁」、書き師「天麻」が新たな素材へ挑みました。

豊岡の歴史的地場産業「豊岡鞄」

兵庫県 豊岡市は、1200年以上の歴史をもつ日本有数の鞄の産地です。
奈良時代以前から豊岡で作られてきた“柳行李(やなぎこうり)”と呼ばれる、杞柳で編んだ籠が“豊岡鞄”の源流です。“豊岡杞柳細工”は、国が指定した伝統工芸品に指定されています。
「服部」の歴史は、天保元年に服部庄兵衛が京都で「伊勢屋庄兵衛」という家号で創業したことからはじまります。やがて「服部合名会社」初代社長の服部清三郎が豊岡で生産していた「柳行李製品を携帯使用に」と考え苦心の末、“鞄型柳行李”を創案したと伝えられています。
“柳行李”を源流とする“豊岡かばん”、そして「服部」の長い歴史と伝統を守りつつ、現代の生活様式の変化に合わせて鞄を作り続けています。
オールレザー将棋駒への挑戦は、服部社長の「服部清隆」と若手の技術社員「高畑一桜」が将棋好きという、至って個人的な趣味から始まりました。

職人たちの730日にわたる挑戦

ベースとなる駒の部分は、牛革による”オールレザー”にこだわって作成していきます。
鞄作りと同じ様に革を裁断し、薄くする漉きの工程を行い、何枚にも重ね、緻密に駒のサイズに合わせて、将棋駒のフォルムを作り出します。
従来の鞄作りの技術だけでは困難な革の処理には、木工細工などの技術を取り入れながら仕上げていきました。
こうして将棋駒ならではのフォルムを革で実現することができました。

このようにして完成した革の将棋駒に天童の将棋駒師が文字を施しますが……。
「うまく彫れない」
「漆がうまくのせられない」
「納得できる文字が書けない」
ここまでの将棋駒の作成に使用していた革では文字を施すことに適していないことが判明した瞬間でした。
オールレザー将棋駒の挑戦は振出しに戻ります……。





将棋駒に適した革を求めて姫路へ

まずは素材とする革の見直しをするために、かねてから「服部」の鞄に革をご提供いたただいている「山陽」にご助力を求めました。
「山陽」は日本を代表する革の産地“兵庫県 姫路”を拠点に100年以上の歴史を誇る国内トップクラスの高品質レザーをつくるタンナーです。

「山陽」でも若手の営業社員とベテラン技術者のご協力により、さまざまな要望に応じて度重なる微調整を行っていただきました。
駒師が納得できる作品に仕上げられるために革の種類から見直し、革を試作していただいては駒師に試し彫り、試し書きをしていただく、この工程を何度も繰り返して仕上げていきました。

そしてついに“彫れる”、“書ける”を実現した、植物タンニンなめしによる“本ヌメ革”の高品質な「山陽レザー」が誕生しました。

革ならではの経年変化が楽しめる将棋駒

革を薄く漉き、何枚も重ねた厚さ、フォルムや磨きをはじめ、あらゆる革加工の技術を駆使しています。
通常の革の漉き加工は厚みを均等に平らに整えていく加工なのですが、将棋の駒は前部分が薄く後ろ部分が厚くなっている形状ですので、革の漉も斜めに行わなければなりません。この加工はとても細かな技術を要しました。
また、革は断面を磨くことで光沢のある美しい「コバ」が出来るのですが、複数の革を重ね合わせれば重ねるほど難易度は増していきました。
こうして多くの職人たちの創意工夫を重ねていくことで、革ならではの経年変化が楽しめる将棋駒のベースが完成しました。




天童の伝統的工芸を受け継ぐ三人の駒師

姫路の「山陽」で完成した革を用いた将棋駒を携え、ふたたび天童市へ。
山形県将棋駒協同組合にご協力をいただき、オールレザー将棋駒はさらなる本格性を高めていきました。
そして、天童の伝統工芸士「桜井和男氏」に師事する若手の彫り師「亘山」「暁」、書き師「天麻」が新たな素材へ挑みました。



彫り師 亘山 (高橋 亘)

丁寧且つ力強い彫り筋で多くの将棋愛好家から支持

彫り駒を中心に活動しており、丁寧且つ力強い彫り筋で多くの将棋愛好家から支持を得ています。若手彫り師の代表格として天童将棋駒の手彫りの技の後継者として、将来の活躍を期待されています。
伝統工芸士 桜井和男氏に師事し、天童市や山形県将棋駒協同組合の事業で実演を最も多く努めています。

彫り師 暁 (石澤 久美子)

重厚且つ深い彫り筋としなやかな曲線美が特徴

女性ながら重厚且つ深い彫り筋としなやかな曲線美が特徴の彫り師で、若手女性彫り師の代表格として日々研鑽を重ねて天童将棋駒の手彫り駒の伝統を受け継ぐ一人として期待されています。
伝統工芸士 桜井和男氏に師事し、天童市や山形県将棋駒協同組合の事業で実演を多数努めています。





書き師 天麻 (庄司 麻由美)

天童市の書き駒の将来を担う唯一の若手書き師

天童市の書き駒の将来を担う唯一の若手書き師として、将来を嘱望され活躍を期待されています。自身の作品も多く制作し、紅花染めとのコラボレーション等、新しいアイデア作品も手がけています。
勲六等瑞宝章を受賞された伊藤太郎氏(雅号:仁寿)と伝統工芸士 桜井和男氏に師事し、天童市や山形県将棋駒協同組合の事業で実演を多数努めています。




天童で国の伝統的工芸品指定を受けている駒には、“書き駒”、“彫り駒”、“彫り埋め駒”、“盛り上げ駒”の4種類があります。
中でも天童将棋駒の伝統は、駒木地に漆で直接文字を書く草書体の“書き駒”です。しかしながら、戦後は楷書体が主流となり、草書体は一時まったく書かれなくなったといいます。今回のオールレザー将棋駒では“彫り駒”だけではなく、天童の伝統的技法である“書き駒”も作成していただきました。

木とは違う性質の革の駒にひとつひとつ手作業で彫り、書き進める難しさは、通常の木駒の比ではありませんでした。
しかし、その困難をも乗り越える天童の駒師たちの卓越した技術と技法によって美しい文字が駒に書き込まれていきます。





そしてついに完成したオールレザー「本格牛革将棋駒」

将棋駒の生産量日本一の山形県 天童市の伝統技法と、兵庫県 豊岡市の鞄作りで培った革加工技術を融合した、オールレザーの「本格牛革将棋盤」がついに完成しました。
皮革を何層にも重ねて磨き上げ手彫りの文字が刻まれた駒は、まるで使い込まれた高級感漂う木製の駒のような仕上りとなりました。
革ならではの経年変化で使っていくたびにツヤと色の深みが育っていく風合いを感じられます。
オールレザーとは言え、音は将棋を指すときと同じ鋭さを誇っています。木製よりも少しこもった重みのある独特の音が響きます。
将棋駒だけではなく、“将棋盤”と“駒置き”、“保管ケース”まで、すべて牛革で作成しました。

服部のさらなるこだわり

日本の伝統工芸を手掛けるのならその保管ケースさえもこだわりたい。
その想いで採用したのは、豊岡のアタッシュケースを得意とする職人と共同で製造した本格牛革将棋駒セット専用の保管ケース。
将棋駒と素材を統一して“鉄染め”をした牛革を用いました。
牛革の“鉄染め”とは、鉄とタンニンを反応させて染める製法で、染料を使用していないので色落ちがしにくいことが特徴です。
深く染まった独特の重厚感のある「黒」の風合いで、日本の詫び・寂びを感じさせるアタッシュケースに仕上がりました。








内側には『革の将棋』保存に適したオリジナル和紙を使用しました。
京都府北部の丹後地方・上世屋で和紙漉きを通じて日本の温故知新のモノづくりを発信し続けている“いとをかし工房”の「山形歩」さんに、オリジナルの和紙を作っていただきました。
和紙には適度な保湿効果のあり革などの天然素材の保存に適しています。

「革にどのようにしたら均等なマス目を作ることができるのか」と悩んでいた時に、精巧なダンボールアート作品などを手掛けている“夢形エンジニア”の「千田雅彦氏」に相談したところ……「面白いやないか!」の二つ返事で、盤目を手掛けていただけることになりました。
千田氏の手による熟練したレーザー加工技術で、くっきりとかつ正確で均等な盤目を実現することができました。
革の特性上、反りかえり防止のため内部に木材を入れています。




若手鞄職人
「高畑一桜」
代表取締役社長
「服部清隆」
木工職人
「岸本治夫」